style
Where the runway meets the street

熱心なコレクターであるキム・ジョーンズ(KIM JONES)は、長年魅力の褪せることないピースを見分ける目を持っている。Christopher Nemeth(クリストファー・ネメス)の郵便袋から作ったジャケットやMalcolm McLaren(マルコム・マクラーレン)とVivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウェストウッド)による影響力を誇ったSeditionaries(セディショナリーズ)レーベルの色褪せたグラフィックTシャツ、ジュディ・ブレイム(Judy Blame)が再構築したクリーム色のトラウザーといった自身のアーカイブにある洋服もそうである。
パンクはサブカルチャーが、決まった“制服”を持つようになる前が全盛期であった。ロイヤルスチュアートのタータンがエリザベス女王と同様にThe Sex Pistolsまでを象徴したように、アヴァンギャルドを前面に押し出し、一般常識を覆すコンセプチュアルな考えとしては存在していた。
ジョーンズはDIOR(ディオール)のウインター 2019-2020 メンズ コレクションにてブランドのアーカイブとパンクの歴史を紐解き、その観念をラグジュアリーなメゾンにふさわしいよう、コレクションの最前線に持ち込んだ。DIORのアトリエに在籍する熟練の職人たちにはほぼ全てを実現する高い技術が必要とされるため、洋服自体にもクチュールの技術とDIYの精神が明確に表れている。
招待状のポーチには、Minor Threat(マイナースレット)やBlack Flag(ブラックフラッグ)、Sonic Youth(ソニックユース)といったバンドのアルバムジャケットなどを手がけたアーティストとして知られる、レイモンド・ペティボン(Raymond Pettibon)の作品が描かれた。ジョーンズは女優でジュリアン・シュナベル(Julian Schnabel)の娘であるステラ・シュナベル(Stella Schnabel)を介してペティボンと知り合い、すぐに夢中になったと認めている。


前回のコラボレーターであるKAWS(カウズ)もペティボンのファンであり、作品を収集しているため、ジョーンズにとってペティボンのアーカイブへ目を向けることはそれほど遠い作業ではなかった。しかし二人が全くの他人ではないとジョーンズに気付かせたのは、ペティボーンの自身のアートに対する献身さであった。
「マイケル・スタイプ(Michael Stipe)がペティボンと一緒に住んでいたヘンリー・ローリンズ(Henry Rollins)と遊んでいるとき、ペティボンは一日中座って、機械のように絶えず絵を描いていると、ローリンズから聞いたとスタイプが言っていた」とジョーンズは述べ、次のように続けている。「誰かが物作りなどにおいて素晴らしい才能を発揮するには、それほど強い印象を受けるだけの量を発せられるのだと思う。」
過去2シーズンのDIORのメンズショーとは異なり、今回は洋服にスポットライトが当てられた。KAWSや空山基による巨大な像はなかった。代わりに動くランウェイの上にモデルはまっすぐと立ち、鑑賞するにふさわしいオブジェクトとなった。ベルトコンベアーが動くにつれ、Daft Punk(ダフトパンク)の『Musque』を含む、ホニー・ディジョン(Honey Dijon)が制作した音楽がコレクションの全体的な雰囲気と同調した。
ペティボンの創作活動と同様に、ジョーンズもすでに3度目となったDIORのメンズ コレクションをわずか9ヶ月の間にやってのけた。ウインター 2019-2020 メンズ コレクションは、DIORの一貫性のあるクラフトマンシップにフォーカスすることであった。デビューコレクションにも登場した裏表が逆になったスーツが再び見られたが、今回はラグジュアリーなコントラストを生むために温かいウールとシャイニーなサテンを混合した冬用の生地で作られ、トップコートと合わせられた。ジョーンズは1947年のペティボーンのアーカイブからアニマルプリントを引用し、パンク(間違いなくトレンドである)らしいタイガーとレオパードのプリントを混ぜて加えた。さらにそれらのプリントはミンク素材を使ったハイエンドなバッグやB23スニーカーにも落とし込まれた。

このコレクションにはタクティカルベストも登場したが、背景にある直接的なインスピレーションについて素早く語っている。「タクティカルベストは今起こっているような政治的なものとは一切関係ない。」DIORのショーも、パリで起きている黄色いベスト運動によってスケジュール変更をせざるを得なかった一つである。「アーカイブの中でクリスチャン・ディオール(Christina Dior)氏の写真を見ていたら、彼がスーツの上にアーマーを着たような男性のすごくクールな2つの像の側に立っていたから、そこからアイデアはきているんだ。」
このインスピレーションはアクセサリーにまでわたり、ジョーンズによるマスキュリンの再解釈であるサドルバッグは今シーズン、高級なナイロンで作られた。新しいシルエットのシューズや新作のB23、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)によるローラーコースター バックルを使用したモデルなど、スニーカーヘッズたちが喜びそうである。
レイヤリングとドレープは今回のコレクションにおいて、2つの大きなメッセージであった。ジョーンズは引き続き、ハウスのメンズウェア哲学を自身のやり方で単一化している。今シーズンはスーツルックにスカーフをベルトのように使い、エレガントな要素を知るシルエットに加えた。特に注目すべきは、15人が1,600時間かけて作り上げた手で刺繍をしたビジューのシャツである。
「そういったものが好きなんだ。」とジョーンズは認める。「DIORはメゾンであって、億万長者の人たちだけが手に入れることができ、壁にも掛けられるかもしれない特別なピースで祝し、世の中に発信していくべきだよ。」

もちろん、DIORの顧客とキム・ジョーンズのファンの間には大きな広がりがある。ジョーンズは最近スタジオを訪ねてきたKITH(キス)のロニー・フィエグ(Ronnie Fieg)やCLOT(クロット)のケビン・プーン(Kevin Poon)がコレクションに圧倒されていたことを思い返す。また、自身の作った洋服がどう解釈されるかは着用する人によってそれぞれで、どのように自分のものにしているかを見るのが、ジョーンズが大好きなことの一つである。
「様々な異なるタイプの人々が、僕の作った洋服を着るという事実が好きなんだ。僕の知らない人たちが自分のデザインした洋服を着ているのを見るのが大好き。それこそ最高な感覚だね!」

Words by
engineer

世界を股にかける天才敏腕エディター