Report |ショーナ・トゥーヘイが語るストリートウェアカルチャー
「カッパ(KAPPA)」は、東京のインディペンデントセレクトショップ『GR8』とパートナーシップを組み、8月18日(土)、19(日)の2日間で『KAPPA 2 DAY SPECIAL STORE』をオープンした。
当日は、「倉石一樹」が手がける「エーフォーラブス × カッパ(A. FOUR LABS x KAPPA)」の新コレクションが世界に先駆けてローンチされた。さらに、コラボレーターとしてオーストラリア発のブランド「パム(P.A.M.)」の「ショーナ・トゥーヘイ(Shauna Toohey)」を迎え、ユニセックスアイテムやウィメンズアイテムをリリースした。また、「KAPPA」の象徴でもある『BANDA』コレクションも並んだ。
そして今記事では、「ショーナ・トゥーヘイ」へのインタビューを紹介する。自分が手がけるブランド「パム」もストリートブランドと自ら称しているが、彼女の考える本物のストリートウェア、そのカルチャーが持つ影響力、本来の意味でのコラボレーションについて語ってもらった。
今コレクションの根底にあるものは?
「テーマは”Your Total Self”。これは自分自身を個人としてだけでなく世界、友達、グループの中で考えるということ。友達みんなと遊びに行って、その集団の中でダンスをしていると、なんとなく自分を失い、個人より大きな存在の一部になるっていう感覚が好き。それに最近のセルフィーカルチャーや”私は何が欲しいか?”、”私は何が必要か?”、”私、私、私”という個人主義的な考え方からの解放を伝えたかった。それよりも”みんな何を欲しているか?”、”みんなが何を必要としているか?”とか個人を集団の中で捉えた方が単純に楽しいと思う。」
どうやってこのコラボレーションは始まったのですか?
「エーフォーラブスのカズキからこのコラボレーションに参加しないかとアプローチがあったの。お互い15年以上知っているし、もちろん彼の作品のこともね。随分前に少しパムのプロジェクトでも仕事をした。彼はストリートウェア界でレジェンドのような存在だから、話をもらったときはすごく興奮したし、とても光栄だったわ。」
今回はデザイナー「ショーナ・トゥーヘイ」としての参加ですね。P.A.Mのデザインワークの際と、どうやって差別化を図ったのですか?
「パムの場合はいつもミーシャと一緒にデザインを考えたりするけど、今回は全く違って、一人のデザイナーのデザインエクササイズとして楽しんだわ。基本的には、カズキにテーマやアイディア、デザインを提案して、そこから彼がさらにデベロップしていった感じね。それに日本産ということにこだわっていて、日本に住んでいる人たちとプロダクションをしたからこのコレクションに使われた生地は本当に素晴らしいわ。」
日本のストリートカルチャーについて。また変化してきていると思いますか?
「ブランドを始めて20年ぐらいになるけど、パムはストリートウェアで、確実に日本のストリートカルチャーから影響されているし、日本のストリートウェアは大好き。20年近くずっと見ているし、自分もその一部でいると感じてる。最近ではアメリカに拠点を置くストリートウェアブランドがパワフルになてきていると思う。私の主観にはなるけど、それでも日本のアプローチの方がユニークだし、面白いと思う。」
ストリートウェア文化全体も変わってきていると思いますか?
「劇的に変わってきていると思う。本来、ストリートウェアは私にとってカルチャーの要素がたくさん詰まっているものなの。単なる色や柄の流行りではなく、カルチャーが先行すべきで、私たちのコミットすべきところもカルチャーだと思っている。それに今はみんな自分を優先したり固執しているけど、結局それだとその中から楽しさは生まれてこないと思う。仮にどんなに成功したって、その喜びを共有出来る人がいないと嬉しくないもの。すごく美味しいご飯でも、誰かそれを共有できる人がいないとつまらないでしょ。人とシェアするのはとても良いことで、私たちはお互いを思いやり、一緒に楽しむということをもっと考えないといけない。」
「そういう意味でカッパはすごくリスペクトしているの。だってすごくアイコニックなブランドだし、90年代のレイヴ音楽が流れているような場所に行けば半分ぐらいの人が着てたわ。それってすごくカルト的で、何か大きな一部になれるということだから。カッパと一緒に仕事をする機会をもらったとき、そういうこともあってすごくしっくりきたの。自分のことだけ考えていても幸せにはなれないし、そういったことを誰かがそろそろ話すべきだと思ったから。」
「ストリートウェアは今ではメインストリームになってしまい、私がストリートウェアが好きだった理由の”テーマ”や”アイデンティティ”が失われつつある。だけど諦めるのでなく、それに対して戦わなければならないと思ってる。何かしら意味のあるメッセージを送ることに興味もない、巨大ブランドにやりたい放題させるだけでなくね。彼らは本来それだけのパワーは持っているはずだけど。」
「私にとってストリートウェアは、誰かとシェアするということなの。パムがやっているのはすごくアンダーグラウンド。だけどカッパは良い意味でメインストリーム。これは私にとってより遠くへ、より多くの人へメッセージを届ける絶好のチャンスだったわ。何人の人が私が作ったTシャツを着ようと気にしないけど、私のTシャツを着た人がそれぞれ考え、何かを一緒にやろうとしてくれることが大切。それこそが私のやりたいことで、ストリートウェアの魅力的なところ。洋服自体がそれ以上に意味を持つことはないと思う。」
昨今のコラボレーションブームについて
「ここ最近でこんなにもコラボレーションが増えたのは、ブランド側が世間の注目を求めすぎた結果だと思う。もし年に2回コレクションを作ったら、その回数だけしか話題にならないから、コラボレーションを作ってニュースを発信したいだけ。だけど私たちには社会的責任がある。世界には限られた資源しかないのに、何で年間に大量のスニーカーを作る必要があるのかしら。これからは、より自分が作るものに対して真剣に考えていかなければならないし、意味のあることだけをして、もっと消費をゆっくりと落ち着かせる必要がある。コラボレーションも減らしていかなければならないし、そもそもただ配色を組み合わせたようなものは本物のコラボレーションなんかじゃないわ。」
オーストラリアのストリートカルチャーについて
「今のオーストラリアについてはあまり知らないから、パリについて話す方が簡単かもしれない。今のパリはすごくエキサイティングでエネルギーに溢れた都市よ。ストリートは本当にみんなのもので、路上で多くの人が遊んでいたり色々なことが起きているわ。誰かが路上でウィードを吸っていても、警察すら気にせず無視していくの。すっごくクレイジーで、80年代のニューヨークみたい。世界中の地域から色々な人が来ていて、様々な格好をしていたり、違う音楽を耳にするから、生活しているだけですごくインスパイアされるわ。本当に人種のるつぼよ。ストリートはすごくエネルギッシュで、やっぱり80年代のニューヨークを思い出すわ。」
カッパはイタリア発、ご自身はオーストラリア出身ながら、現在はパリ在住だとお聞きしましたが、今回ローンチに東京という都市、そしてGR8を選んだのはなぜですか?
「カズキが日本人だからというのもあるけど、GR8はパム、そしてカズキの大きなサポーターなの。クボ(GR8 オーナー兼バイヤー 久保光博氏)は、世界でも現在とても重要な存在だと思う。お店は東京に構えているけど、彼のやっていることは東京だけへ発信しているのでなく、世界中に向けてやっているから。ストリートウェアシーン全体に影響力を持っているし、みんな彼のやっていることをチェックしにやってくる。誰もが旅行できて、どこにでも行き来できるようになったこの時代では、GR8はこういったローンチを開催するには最適な場所だと思う。」
インタビューを終えて
昨今のファッションシーンでは、毎日のようにコラボレーションが発表されている。それはスニーカーのみに限らず、スポーツブランドからラグジュアリーブランド、リテールストアやファニチャーブランドなど多岐に渡り、様々なプロダクトが日々誕生している。
もともとコラボレーションとは、確固たる美学やクリエイティビティ、哲学を持ち合わせるもの同士がお互いを良く理解し合い、更なる創造性を求める行為ではないだろうか。
最近ではこのコラボレーションということ自体が目的であり、もはや手段ではなくなってしまったように感じる。
それは単なるダブルネーム、”限定”や”エクスクルーシブ”という巧みな言葉に心踊らされ、または資本主義が生んだ超個人主義的考え、人と違うものを所有することに魅力を感じ、そこへ価値を見出す消費者に起因するのだろうか。
一方で、インタビュー内でショーナがコメントした、限りある資源の中で過剰生産をし続ける大企業の社会的責任も考えられる。
また、ひと昔前までサブカルチャーであったストリートウェアは、今ではすっかりメインストリームとなってしまった。だが、このトレンドとしてのストリート時代が終焉を迎えたとき、ストリートブランドと自ら謳っているブランドらがどれだけ残り、いくつが淘汰されるだろうか。やはりその差は、そこに強い”アイデンティティ”があるかなのかもしれない。
- Interview/Text: Takaaki Miyake