ラグジュアリーブランドが見据えるストリートウェアの「その先」
ロンドンを皮切りにメンズファッションウィークが始まり、ウィメンズファッションウィークでショーを行うと発表したBURBERRY(バーバリー)、GUCCI(グッチ)、BALENCIAGA(バレンシアガ)の例外的なコレクションの開催も含め、今季のメンズコレクションは終焉に向かいつつある。
主軸であったストリートウェアのシルエットから、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)やDIOR(ディオール)、PRADA(プラダ)で見られる新たなテーラリングへの変化が決定的であったとも言える。結局、数年シーズンと話題になったスニーカーやテクニカルな生地を使用したアウターウェア、オーバーサイズのアイテムなどでランウェイを練り歩く姿から進化を遂げたのだ。多くのメディアも、ストリートウェアが過去のものとすぐに見切りをつけたのも驚きではなかった。しかし、実際はそうではない。ストリートウェアはラグジュアリーブランドには見放されたが、ラグジュアリーブランドでのストリートウェアは更なる進化を遂げようとしている。
時代に逆行する動きとしてサブカルチャーが1970年代に起きて以来、若いサーファーやスケーターは、個性や快適さを求めた服に力を注ぎ、同時にそれらはコミュニティーを象徴するものとなっていった。しばしばそれは、ファッションや音楽、芸術や政治的活動など同じ価値観を持った若者が集まる様々なコミュニティーを巻き込んでいった。
Stüssy(ステューシー)のTシャツや、後のFUBU(フブ)のスウェットシャツのようにそれらを着ることが、その集団に属するという単なるステータスではなく、実際に所属を意味していた。これらのブランドは、ただの服作りではなく、意味のある服作りであった。
未だ有名なラグジュアリーブランドのいくつかは、ストリートカルチャーという文化の成長を軽視し、ブランドに悪影響を与えると考えているようである。しかし、一歩先を見据えるデザイナーたちは、ストリートウェアにありきたりなアイテムをラグジュアリーブランドで作り、パリのランウェイに登場させることで真逆のものとして存在する2つのものを融合する方法を採用した。リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)によるGivenchy(ジバンシー)2011年秋冬のRottweiler*(ロットワイラー)コレクション、ニコラ・ジェスキエール(Nicholas Ghesquière)による2012年秋冬BALENCIAGA(バレンシアガ)の「Join a Weird World」と書かれたスウェットシャツ、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代のCELINEからは2014年秋冬に発表されたNike Air Force 1(ナイキ エア フォース 1)オマージュのベージュのスニーカーなどを考えると納得できるだろう。
*古代ローマ原産の大型犬
2015年まで、どのブランドもadidas(アディダス)のStan Smith(スタンスミス)やSuperstar(スーパースター)などのモデルから着想を得た、白のミニマルなスニーカーが多かったのは、あくまで「アスレジャー」の潮流にのっとったもので、ストリートウェアに根付いているものだったからだ。洋服のカジュアル化も起因しているが、そこに革新的なものは何もない。
2017年1月、2017年秋冬コレクションでキム・ジョーンズ(Kim Jones)がアーティスティックディレクターを務めたLouis VuittonがSupreme(シュプリーム)とのコラボレーションを発表した。これがターニングポイントとなった。同月、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)のBALENCIAGAでのデビューコレクションでもダヴィッド・トゥルニエール=ボーシエル(David Tourniaire-Beauciel)によりデザインされたTriple S(トリプル S)という野暮ったい見た目をしたスニーカーが登場。Nike(ナイキ)やNew Balance(ニュー バランス)のレトロモデルから着想を得たもので、すぐにファンによって熱狂的人気を博した。
スニーカーに関していえば、若い世代の消費行動を規定したのはストリートウェアではなく、ラグジュアリーブランドだった。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)はLouis Vuittonで、キム・ジョーンズ(Kim Jones)がDIORでのアーティスティック ディレクターとして、それぞれ初のコレクションを発表したのが、2018年6月である。その時まではストリートブランドや、スポーツブランド、その他のラグジュアリーブランドが「ダッドスニーカー」と呼ばれるシューズを様々な形で発表していた。同時期にはスニーカーのみならず、ラグジュアリーブランドの半透明の生地に注目が集まった。
こういったラグジュアリーブランドが、若い世代を惹きつけたがるのか理解するのは難しいことではがない。2025年までに、ラグジュアリーマーケットにおける45%のカスタマーがジェネレーションZや、ミレニアル世代と呼ばれる人々で構成されるという予想が出ており、2017年にラグジュアリーマーケットは5%の売り上げ成長を遂げた中、その成長の85%は同世代の消費によるものだったという結果が出たほどである。
同世代の若者たちは、ストリートウェアへと傾斜するラグジュアリーブランドの取り組みに応え始めている。主にヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)や、キム・ジョーンズ(Kim Jones)、新興勢力であるマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M Williams)、サミュエル・ロス(Samuel Ross)、ヘロン・プレストン(Heron Preston)やジェリー・ロレンゾ(Jerry Lorenzo)のようなデザイナーたちのラグジュアリーブランドでの活用が目立つ。ストリートウェアがグラフィックプリントのフーディ、オーバーサイズのアウターウェア、スポーティスニーカーだけではないということを、彼らは分かっている。言わずもがな、ストリートウェアのその先へと導いている。
マイケル・ジャクソンに着想を得た2019年秋冬コレクションのレポートでヴァージルは、「ストリートファッションとしてのスポーツウェアは、ラグジュアリーブランドに変革をもたらした」と発言した。
2019年秋冬メンズコレクションで見たものは、近い将来ラグジュアリーブランドが若い世代にどのように提供されるかを表したストリートウェアの新たな形であった。カラフルで、サヴィル・ロウとは違うリラックスシルエットのテーラリングと、フォーマルシューズのハイブリッドモデルがミックスされたスタイルが登場した。レザー素材も革新的なバックルなどの金属を付けることで、若い世代に人気を博す新たなアイテムへと昇華させた。そしてラグジュアリーブランドに若い世代を惹きつける上でプリントはストリートウェアと密接な関係にあるデザイナーのブランドでは特に欠かせないものとなる。
ストリートカルチャーとの関係を持たないデザイナーたちは、様々な素材を使い、シルエットを生み出したり、若い世代の文化にルーツを持ち憧れられるブランドや、人物とタッグを組んだりすることで今シーズン成功を収めた。それは、Fendi x Porter(フェンディx ポーター)や、Dior Hommeとマシュー・M・ウィリアムズ、VALENTINO(ヴァレンティノ)とUNDERCOVER(アンダーカバー)などのコラボレーションが挙げられる。
VALENTINOのクリエイティブディレクターであるピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)によるショーの後の発言は、ファッションの新たな道を示した。「私は、ストリートウェアがもう終わったとは思わない。そう考えてはいない」とHighsnobietyに語った。また、「今回のシーズンは、テーラリングの価値を再考したものとなった。でもそこにストリートウェアの理念も織り交ぜている。取り繕わず、リラックス感を求めた。それが私の答えなんだ」とも発言した。
ラグジュアリーブランドは、どのようにストリートウェアを解釈するべきかを今学んでいる。だがその大半は、最新のアイテムを買うため数時間並び、フォーラムやフェイスブックに参加することに時間をかける若者たちを獲得できなかったと後悔があるようである。
若い世代にとって、ラグジュアリーとは、もう限定や値段を連想するものではない。個人とつながりがあるものや、価値のあるもの、グループの中にいることを示すために購入することこそが、若い世代を満たすブランドやアイテムとなっている。理由もなく、文化との繋がりもない偽物の服を若い世代がおそらく買うことはない。Highsnobietyの白書内で言及したように、アンケートに答えた85%の人が、服が意味するものは、クオリティーや、デザインと同様に重要であると信じているのである。
故に、ラグジュアリーブランドは、若い世代に向けてではなく、彼らを通して表現されることが必要となる。過去数シーズン見てきたストリートウェアは、明らかにストリートウェアと呼べるものではなかった。それは、カウンターカルチャーであり、それが混ざり合ったものはどんなスタイルにも永遠と残り続け、今日のフーディや明日のテーラリングの基礎となるだろう。
ラグジュアリーブランドはそこにある古い規則を断ち、現実離れした世界を離れ、誰のために洋服を作っているのかを見定めなければ、真のユースカルチャーからはいつも出遅れることになるだろう。
- words by: Christopher Morency