日本の次世代ランナーがあやかった“靴の神”の恩恵
日本の文化とは、温故知新である。伝統を重んじることが、未来を見据えた革新的な考えの礎を築き上げる。この状況を背景に、『The Greatest Race』という漫画の主人公たちは、世界最古のスポーツと称される“ランニング”において、新たな歴史を刻もうとしている。
長い歴史において、ランニングはいろんなかたちで進化を遂げた。人類は更なる速さを求めて、ランナーの記録更新を後押しし、スピードの限界を超えるテクノロジーとともに、シューズも進化してきた。次なるレースを糧にランナーの精神は刺激され、精巧なシューズがその高みへと連れていく。伝説の名工である三村仁司は、マラソン界における期待の新星、神野大地が挑戦する世界で最も速いマラソン選手への旅路をサポートすべく、何世紀も続く製造工程に変革をもたらしている。
しばしば“靴の神”とも称される三村は、50年にわたってアスリート向けの別注シューズを作り続けている。その細部へのこだわりと反復過程で知られ、2004年には技術者の最高権威である「卓越した技能者(現代の名工)」として厚生労働省より表彰された。2010年には兵庫県にM.Lab(ミムラボ)を設立し、日本でも未来を約束されたエリートランナーのみが訪れることができるシューズの聖地となった。
その内の一人が、神野大地である。自身の力で才能を開花させ、まだ始まったばかりの生ける伝説は、上り坂を得意とする走りで“山の神”として知られている。箱根駅伝の最も山のアップダウンの激しいコースで新記録を打ち出し、いくつかの日本のレースで優勝した神野は、世界で最も長い距離を走るレースでのメダル獲得を見据えている。
高い目標を達成するためのサポートを求め、2018年に神野はNew Balance(ニューバランス)と契約を結ぶ。ブランドが、公式グローバルシューズアドバイザーとして三村との業務提携を発表した同年である。世界最高のランニングシ ューズを作る共通のビジョンのもと、New Balanceは三村から着想を得た最新の最高傑作であるNB HANZO V2を発表した。日本の長いマラソン史へ敬意を表したランニングシューズであり、最先端のデザインと素材、テクノロジーを踏襲している。
NB HANZO V2は、三村と神野のように、新旧、伝統と革新が相互作用している。そして、一つ一つの歩みが、今日の日本のランニングカルチャーを投影している。
『The Greatest Race』に登場する英雄二人のそれぞれの鍛錬がいかに影響しているのかを聞いた。
トレーニングのプロセスを教えてください。
毎日走っているのですが、脚力を鍛えるフィジカルトレーニングに力を入れています。長時間のランニングに耐えられるように筋持久力を高めています。
走ることに対するやりがいは何ですか?
努力は裏切らない。努力をすれば結果が出せる魅力的な競技だと思っています。
次の目標はありますか?
東京オリンピックを見据えています。世界の舞台で戦うために、自分の実力を2段階、3段階上げていかないといけないと思い、最近ではケニアにも行きました。
自身の強みは何ですか?
粘り強さです。きつくなった時にどれだけ踏ん張れるかが重要だと思っています。
マラソンを走る原動力とは?
孤独なスポーツだと言われますが、家族やトレーナー、コーチ、New Balanceの人たちや靴を提供してくれる三村仁司さん、さらには栄養士や理学療法士など多くの人のサポートがあってスタートラインに立てています。たくさんの人の思いを背負っていればいるほど、マラソンは頑張れるんです。
靴職人になったきっかけは?
学生の頃に、よくカーブを走ってはシューズがすぐにダメになってしまっていたんです。この経験が、より耐久性のあるシューズを作りたいと思うきっかけになり、大学卒業後に靴職人の道へ足を踏み入れました。何十年も従事し続け、定年退職をしたのですが、多くのランナーやコーチの方々から「三村さんのシューズが必要なんです。」という声もあり、M.Labを創設するに至りました。
神野選手のためのシューズを作り始めたのはいつですか?どのように知り合ったのですか?
当時大学生の神野選手は駅伝を走っていて、私はチーム全員の靴を作っていました。神野選手は責任感が強く、チーム全体をまとめている印象が強かったです。言動を行動で示す人物でした。だから私自身も、快適で耐久性のあるシューズを作る責任があると感じています。
靴職人として報われるのはどんな時ですか?
数十年間、私の作ったシューズを履くランナーを見てきて、毎回感動させられるんです。メダルを獲って、私のシューズのおかげだと言ってくれるランナーもいます。これが、靴作りをし続けようという原動力になっています。
靴作りにおいて重要なことは?
ランナーが自身の目標を達成するためのサポートであることを最優先としているので、疲労や故障から足を守る靴を作るようにしています。それが私の使命であり、責任です。
職人としてのモットーは?
靴職人として、私の想像の中から生まれるものであり、アイデアを発展させ続ける必要があるんです。一つ靴を作って満足したならば、それはプロではないでしょ。挑戦し続け、進化し続けることが大事だと思います。それが未来への挑戦です。本当のプロというのはそういう信念を持っています。
靴作りにおいて、次の目標はありますか?
世界一の靴を作りたいですね。世界一の靴は、多くの人に素晴らしい走りを提供できると思っていますから。
- WORDS: Jian Deleon
- INTERVIEW: Runa Anzai
- PHOTOGRAPHY: nocompany