ファッションウィークと心の健康 業界関係者が語る舞台裏
米モデルのケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)は昨年末、精神状態を健康に戻すため、2018年秋冬のファッションウィークに参加しなかったと公表した。以前、不安との闘いについて語っていたジェンナーは、英『Love Magazine(ラブ マガジン)』に、メンタルの崩壊が今にも起こりそうだったと打ち明けた。
ケンダル・ジェンナーが休んだことも無理はない。ファッショントレンドの動向は日増しに早まり、そのスピード感は悪名高い。ファッションウィークは自身を気遣う時間もないほど忙しく、昼も夜も予定で埋まってしまい、何を着るか、フォトグラファーやソーシャルメディアがどのように自分を見ているか、ショーに出席していたかにまで気を配らなければならない。
この業界にいる誰もがストレスを抱え過ごしている。常にストレスを抱えることは、肉体と精神両方に悪影響を与えるが、ストレスを抱えているかなど実際に確かめることはできない。その代わり、魅惑的なアウトフィットや、豪華な食事やパーティばかりを普段は目にする。
隠れたストレスの部分について明らかにするため、ファッションウィークのストレスについてファッション業界で働く人たちに聞いた。
エム オデッサー(Em Odesser)-『Teen Eye Magazine』チーフエディター
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Her name was Valerie and she ran away with my spurs, my savings, my horse, and my heart
ファッションウィーク中、精神や肉体的に磨り減ったと思う経験をしたことがないとは言えない。だが、僕は未だファッションウィークに参加している。なぜなら自分の雑誌のファッションエディターとして活動していて、本当にこの仕事を楽しんでいるからなんだよ。ファッションでは、ショーが始まるまでに解決すべきストレスや、疲れ、悲しみを受ける状況にたくさん晒されてきた。そういう感情は、業界の中で信用を勝ち取ったとしても未だに感じてしまう。
間違いを犯した訳ではないのに、前日の夜や、ショー当日の朝にパニックを起こしてしまう。スケジュールが詰まりひどく疲れている上に、ストリートスタイルの新たな波は、確実だったものを不透明にし、トレンディーに着飾ることへのプレッシャーが、僕の頭に残るからなんだよ。
僕は、とても自信家だと思うけれど、ファッションウィーク中は、その自尊心も薄れてしまう。先シーズン、セラピーを受けるため参加予定だったショー全てをキャンセルした。そんなわずかな期間にもかかわらず、その時は自尊心が薄れていくことを制御できなくなってしまった。
決定打となったのは、義務感や、恥ずかしいという思いが自分の中で消えなくなったから。インスタグラムを見ていた時に、自分の投稿が他人よりも劣っていて、間違ったことをしたと、その時感じてしまった。それが間違いではなかったにもかかわらず。
オースティン・スミス -バイヤー
ファッションウィークでの僕の役割は、バイヤーに会い、彼らと都合をつけるため自分のスケジュールをどうにか調整する方法を探すこと。だから、僕は彼らと仕事をすることができている。これが意味しているのは、事前に彼らに会い、夕食や飲み会のために過ごす時間にも、外に出てるということだよ。
人と繋がったり、同じ考え方を持つ世界中の人と仲良くなったりすることが僕の仕事の楽しみの一つ。でもニコニコして一日過ごした後や、飲みすぎたり、あまり眠れなかったりした次の日に冷静でいることは難しい。そんな時は、まるで永遠に二日酔いが続くような気分になるし、走りに行く時と似た感覚になるんだよ。
そんな気分にニューヨークでなったとして、まだ他にもロンドンや、パリ、ミラノにも行かなければいけない。ファッションウィークは約1カ月も続き、その期間中ずっと開催されている。だからそれが終われば、もうヘトヘトに疲れ果ててしまう。
セバスチャン ローズマリー -モデル
ファッションウィーク中は、業界の人たちが少しピリピリする期間。一般的にモデルであれば、常にそのストレスの中にいる。特に街に着いたばかりの時はなおさらそれを感じる。道を渡ったり、電車で撮影されたり、食事をしている間レストランの中にいたとしても、あなたを見ている人に気が付くことはないだろう。また、ファッションウィーク期間中は不安や恐怖の影響を強く受けパラノイアになるもう一つの原因がある。
去年、事務所とのキャスティングの期間に精神的に滅入る経験をした。全ての仕事を請け負ったのだけど、それは事務所がモデルを精神的に強くさせるために行った一か八かの戦略だった。結局私自身、精神的にも肉体的にも本当に疲れてしまった。
だから今年は、厳選したいくつかのブランドのキャスティングにだけ参加した。結局仕事が無かったとしても、その経験や仕事のやり方にはすごく満足感を得た。私が契約したショー全てを欠席したのは、精神の健康を気遣い仕事を保留にしたからで、次のブランド広告の撮影が行われる時期の仕事に集中するためでもあった。
シンディー・ラミレス -Chillhouseオーナー
ファッションウィーク中は、仕事をしている期間でも、スタイリッシュに見せることが求められることもあって、そのゴタゴタのせいでいつも疲れ切ってしまう。だから、ファッションウィークの独特のリズムに慣れるための時間が必要。なぜなら、慣れていないと睡眠不足だったり、より見た目が良い人と自分を比較したりすることが原因で、おしゃれに着こなして、くつろいでいるふりをしても、気分は最悪って感じてしまうから。慣れたからといって、今までにそういう風に気分が晴れたことがあるかとかは分からないけれど、今までよりあまり感じなくなったと思う。現在のストリートウェアの世界は、精神状態に悪影響な不安などをもたらすSNSへの恐怖に我々を晒す。フォトグラファーが、薄っぺらいストリートスナップスターを追いかけているのは、もううんざり。なぜなら皆、私が全く同じものを着ていてもそっちばかりを評価するから。
それに、ランウェイの最前列に毎度同じ人ばかりを座らせるデザイナーにもうんざりしている。エリカ・ハート(Ericka Har)という女性がこの前フェイスブックで、今までに訪れたことのあるファッションショーは彼女自身がモデルとして歩いた時だけと言っていた。最悪だよ。なぜなら、ファッション業界は、しばしば知り合いだけの内輪でまわっているから。ここに『CHROMAT(クロマット)』(NYコレクション参加ブランド)のランウェイを歩くほどの影響力を持つ女性がいるとして、彼女は他のブランドに招待されることはあるのか。ファッション業界が外交的になる必要があるし、そうなれば皆もっとファッションを楽しむことができる。
ルーク・ミーガー -ユーチューバー兼ファッションコメンテーター
自分の実力でファッションショーに出席したのは、今回が初めてで、とても魅力的でワクワクするものだったと思っていた。でもPRの人々に対処することや、「私たちの会場は今シーズンすごく小さいの」というお断りのメールが来て、他のショーに参加するために、とても蒸し暑く、汗が吹き出る真夏のニューヨークでお金もないのに走り回る始末。だから私は、全く魅力的だとか、ワクワクなんて感じなかった。大学の最終学年でもあったから、その当時ショーへの参加や授業を受ける時間などを調整するといったことでストレスが溜まってしまった。
セリーヌ・シマーン・バーノン(Celine Semaan Vernon)-Slow FactoryとThe Library Sustainable Fashion Archiveの創業者兼デザイナー
ニューヨークファッションウィークは、疲れたというレベルでは済まない。SNSの恐怖に怯えることに加え、高校の中でかっこつけるような無理をしている感覚に近い。私は、伝統的なファッションの感覚を持つというよりも、極端にファッションオタクな人に近いような感覚。だからファッションウィーク時、世間を賑わすような存在(イットガール)ではないのだと思った。たとえそこに属したとしても私は、ショーやプレゼンテーションには呼ばれない。だから私は、我が道を行く必要があって、そういう文化は、いかがかと思う。なぜファッションウィークは、オープンで、皆がアクセスしやすい環境にならないのだろう。
精神状態を良く保つためのやり方をまだ皆知らない。どのように身体のケアをするのかを知っているのに、それが精神的なこととなると、急に分からなくなってしまう。ファッションウィークは、精神の健康に影響を及ぼすから、自己管理をするようにしている。自分の精神を強くすることは、第一に大切なこと。だからと言って、いつも自己管理ができてる訳ではない。
私は、前回のファッションウィークのショーとパーティーをキャンセルした。そういうイベントに圧倒され、社交的な交際が多過ぎたから。当時私の中の心配を表すメーターが警告を出すほどひどく疲れていて、健康な状態ではなかった。ミーティングさえキャンセルするほどにね。全力を尽くせない状況になってしまった。
SNSの恐怖や他人からの期待を自分の中で上手く処理することが鍵になる。SNS内で取り残され、それをジャッジする他人から見た自分を責めず、おおらかになることが精神状態を良くする健康法なのではないだろうか。
- Words by: Sara Radin